119回Update
medu4テキスト(科目名だけの場合は『あたらしいシリーズ』です)の該当セクションをそれぞれお示ししましたので、そちらに追記いただけますと幸いです。
むろん一語一句すべてを追記する必要はなく、ご自身に必要と思われるエッセンス部分のみをご採用いただく形で大丈夫です。
各項目の国試番号をクリックすると、実際の問題に飛ぶ便利な仕様になっています(事前のQRコードログイン必須)。
※Update講座の趣旨はこちら。
※正答を導くために必要な知識に限定しています。たとえ新出事項であっても、常識で解けるようなケース、知識ではなく理論的に考えて導くケースでは省略もあります。
119A5 朝の家庭血圧の測定条件(テキスト 内分泌代謝7.2)
高血圧の診療においては、診察室血圧よりも家庭血圧の方が予後との相関が強く、診断や治療効果判定の上で重要な指標となる。 特に「朝の家庭血圧」は、脳卒中や心筋梗塞といった心血管イベントとの関連が深く、標準化された条件での測定が求められる。
朝の測定では、以下の条件が適切とされる:
- 起床後1時間以内
- 排尿後
- 朝食前
- 服薬前(降圧薬の服用前)
- 座位で1〜2分安静にした後、上腕で測定
これらはすべて、外的要因(排尿反射や食事・薬物による影響)を最小限に抑え、安定した血圧を得るための工夫である。 中でも 排尿前の測定は、膀胱の充満による交感神経刺激のため血圧が高くなりやすく、避けるべき である。
119A9 肩関節脱臼の特徴と再脱臼リスク(テキスト 整形外科2.3 下部余白)
肩関節脱臼は、全身の関節脱臼の中でも最も頻度が高い。とくに多いのは前方脱臼(前下方型)であり、これは肩関節が外転・外旋された状態で外力を受けたときに発生しやすい。外傷による脱臼のほとんどがこの型である。
脱臼に伴って、関節包・靱帯損傷のほか、関節唇損傷(Bankart損傷)や骨頭陥凹(Hill-Sachs損傷)などを合併することがあり、これらが再脱臼の原因となる。若年者では再脱臼のリスクが高く、初回脱臼後にスポーツや日常生活動作で繰り返すことも少なくない。一方、高齢者では関節周囲組織が線維化しており、再脱臼の頻度は比較的低い。
脱臼時に腋窩神経が障害されることが多く、三角筋の萎縮や肩外側部の感覚障害をきたすことがある。神経損傷の評価も初期対応で重要となる。
肩関節脱臼は、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)とは直接の因果関係を持たない。肩関節周囲炎は加齢や不動化による拘縮性変化が主因であり、病態が異なる。
なお、後方脱臼は痙攣や電撃傷など特殊な病態により生じることがあり、通常の外傷では稀である。
119A13 Brugada症候群における突然死リスク(テキスト 循環器3.8)
Brugada症候群は、心室細動に伴う突然死のリスクを有する遺伝性不整脈疾患であり、リスク層別化と予防的治療の適応判断が重要となる。
突然死のリスクを高めるとされる臨床的因子には以下が挙げられる:
- 原因不明の失神の既往
- 家族歴に突然死(特に若年者)がある
- 自発性のType 1型Brugada心電図所見
- 心室細動・心室頻拍の記録
- 薬剤負荷試験による誘発性VT/VF
- 電気生理学的検査における誘発性心室細動
一方で、糖尿病や喫煙歴、薬剤アレルギーといった一般的な生活歴・疾患歴は、Brugada症候群における突然死のリスク因子とは考えられていない。
突然死の高リスク群では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が検討される。
119A32 HBV既感染者における化学療法前スクリーニング(テキスト 肝胆膵2.3)
悪性リンパ腫などで化学療法を行う際、B型肝炎ウイルス〈HBV〉の既感染例では再活性化による肝炎発症リスクに注意する必要がある。とくにリツキシマブを含む抗CD20抗体療法は、HBV再活性化の頻度が高い治療法として知られている。
HBs抗原が陰性であっても、HBc抗体およびHBs抗体が陽性というパターン(既感染型)では、ウイルスが肝細胞内に潜伏しており、免疫抑制下でHBV-DNAが再増殖する可能性がある。このため、治療前にHBV-DNAの定量検査を行い、ウイルス複製の有無を確認することが推奨される。
一方で、HBc抗原は主に肝細胞内に存在し、血中には現れないため測定自体が診療上意味を持たない。HBe抗原およびHBe抗体はウイルス複製能の指標となることもあるが、これらはHBs抗原陽性者(慢性持続感染者)における補助的な指標であり、HBs抗原陰性例に対する再活性化評価には適さない。
したがって、HBs抗原陰性・HBc抗体陽性の症例では、HBV-DNA定量が唯一の直接的指標となる。陽性の場合は核酸アナログ製剤による予防的抗ウイルス療法を開始し、陰性であっても治療中は定期的なモニタリングが必要である。
119A57 アセチルコリン負荷冠動脈造影と薬剤の影響(テキスト 循環器4.3)
冠攣縮性狭心症の診断には、冠動脈造影におけるアセチルコリン〈ACh〉などの負荷試験が用いられる。これらの薬剤は副交感神経作動を介して血管内皮機能の異常を誘発し、冠攣縮を再現することにより、病態の確認を可能とする。
この検査においては、冠攣縮を正しく誘発する必要があるため、検査前には冠拡張作用をもつ薬剤を中止しておくことが基本である。特にカルシウム拮抗薬は冠動脈平滑筋を弛緩させ、検査結果の偽陰性化を招くため、影響が大きい。実際の臨床では、数日前から中止した上で検査に臨む。
119A58 慢性膵炎における酵素補充と食事指導の原則(テキスト 肝胆膵5.2)
慢性膵炎の治療においては、進行度に応じた栄養管理が重要である。膵外分泌機能が保持されている代償期では、食後の膵刺激を軽減し炎症を抑える目的で低脂肪食が有用とされる。
一方で、膵外分泌不全が進行し、脂肪便や体重減少、下痢といった消化吸収障害が顕在化した非代償期では、脂肪摂取そのものを制限するのではなく、消化酵素薬(とくにリパーゼ製剤)による補充療法が中心となる。これは、十分な栄養摂取を維持した上で、脂肪を適切に消化吸収させることが治療の目的となるためである。
非代償期において脂肪摂取を過度に制限すると、症状が一時的に軽減する可能性はあるものの、長期的には栄養失調や体重減少を助長するリスクがある。したがって、脂肪は制限せずに摂取し、酵素補充によって代謝を補助するという戦略が基本となる。
119A64 閉塞性動脈硬化症〈ASO〉重症例の治療戦略(テキスト 循環器8.3)
ASOは、下肢の動脈が動脈硬化により狭窄・閉塞し、間欠性跛行や冷感、さらには潰瘍・壊死を呈する疾患である。特に安静時疼痛や組織障害(潰瘍・壊死)を伴う症例では、重症肢虚血とみなされ、積極的な治療が必要となる。
治療には、経皮的血管形成術〈PTA〉や外科的バイパス術による血流再建が検討される。これらの血行再建が難しい場合や併用療法として、プロスタグランジン製剤の投与が末梢循環の改善を目的に用いられる。壊死や感染の進行が著しい場合には、下肢切断術が必要となることもある。
一方で、β遮断薬は末梢血管を収縮させる作用があり、ASOでは血流低下を助長する可能性があるため、投与には慎重を要する。とくに重症例では禁忌となることもあり、他薬剤への切り替えや慎重なリスク評価が求められる。
119A75 水分出納における代謝水の扱い(テキスト 計算問題特講 第II部の余白に)
水分出納〈イン・アウト〉バランスを求める際には、体内に入る水(イン)と体外に出る水(アウト)を正しく分類する必要がある。これは水分管理や輸液設計の基本であり、臨床判断に直結する。
水分イン(摂取)には以下が含まれる:
- 飲水(経口摂取)
- 食事に含まれる水分
- 代謝水(栄養素の酸化により体内で産生される水)
- 輸液・注射などの経静脈的投与
水分アウト(喪失)には以下が含まれる:
- 尿
- 便中の水分
- 不感蒸泄(皮膚・呼気からの蒸発)
- 発汗、出血、嘔吐、下痢などの異常喪失
悩ましいのが代謝水。これは糖質・脂質・タンパク質が酸化される過程で細胞内で自然発生的に産生される水であり、体内の水分収支においては“入る水”として扱う。水を外から摂取しなくても、栄養素が代謝されれば体の中で“得られる水”としてカウントされるためである。
不感蒸泄との混同に注意する必要がある。不感蒸泄は無意識のうちに出ていく水(アウト)であり、代謝水は気づかぬうちに得ている水(イン)という対比で理解すると整理しやすい。
119B1 疾患名と俗称の代表例(テキスト 皮膚科1.5 臨床像の下)
| 俗称 | 疾患名 | 俗称 | 疾患名 |
|---|---|---|---|
| うおのめ | 鶏眼 | とびひ | 伝染性膿痂疹 |
| みずぼうそう | 水痘 | そばかす | 雀卵斑 |
| はしか | 麻疹 | 三日ばしか | 風疹 |
| ものもらい | 麦粒腫 | ほくろ | 色素性母斑 |
| みずいぼ | 伝染性軟属腫 | たこ | 胼胝 |
| いぼ | 尋常性疣贅 | おたふくかぜ | 流行性耳下腺炎 |
| あせも | 汗疹 | じんましん | 蕁麻疹 |
| しもやけ | 凍瘡 | おでき | 癰・せつ |
119B6 HDS-RとMMSEの本質的な違い(テキスト 精神科1.3)
| 比較項目 | 改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉 | Mini-Mental State Examination〈MMSE〉 |
|---|---|---|
| 開発国 | 日本(長谷川和夫) | 米国(Folstein) |
| 構成項目数 | 9項目 | 約11項目 |
| 回答形式 | 口頭のみ | 口頭+書字・動作あり |
| 図形模写 | 含まれない | 五角形模写あり |
| 語想起(言語流暢性) | 野菜名列挙あり | 含まれない |
| 復唱課題 | 含まれない | 長文復唱あり |
| 読み書き課題 | 含まれない | 読字・書字・命令理解あり |
| 教育歴・識字能力の影響 | 小さい | 大きい |
| 言語・文化適合性 | 日本語前提で設計 | 翻訳導入(直訳調あり) |
119B15 上部内視鏡検査における基本体位(テキスト 必修特講 第16講)
上部消化管内視鏡(胃内視鏡)は、左側臥位で実施するのが原則である。これは以下のような複数の利点による:
- スコープを右手で操作する内視鏡医が、患者の口腔へ挿入しやすい
- 舌根沈下や誤嚥リスクを抑えられる(気道確保がしやすい)
- 胃の噴門部から幽門部まで自然なカーブでアプローチできる
- 胃液や唾液が口腔外に流れやすく、誤嚥を防止できる
119B20 胎動を感じ始める時期(テキスト 産婦人科2.8)
胎動とは、胎児が子宮内で自発的に体を動かす感覚が母体に伝わる現象であり、妊娠中期以降、妊婦にとって“胎児とつながる初めての主観的経験”となる。
初産婦の場合、胎動を感じ始めるのは概ね妊娠20週頃が目安とされる。個人差はあるが、経験のある経産婦ではやや早く、18週頃から感じることもある。
最初の胎動は「お腹の中で何かが“ぽこっ”と弾けたような」「内側から泡が昇ったような」非常に微細な感覚で、腸蠕動との区別がつきにくいこともある。だが、この時期を境に、胎児の動きはどんどん力強く、明確になっていく。
なお、超音波では妊娠12週頃からすでに胎児の四肢運動が観察できるが、これはあくまで視覚的な検出であり、母体が「感じる」段階には至っていない。胎動は母体が“内側の他者”を意識的に捉える最初の感覚として、臨床的にも心理的にも重要な節目である。
この頃から妊婦健診では「胎動ありますか?」という問いかけが始まり、以降は胎児の健康状態を母体の体感としてモニターする指標にもなる。
119C6 介護保険における機能訓練とその担い手(テキスト 公衆衛生15.2)
機能訓練とは、介護保険サービスにおいて、利用者の身体機能や生活能力の維持・向上を目的として行われる訓練である。内容は歩行・移乗・立ち上がりといった基本動作だけでなく、調理や掃除などの家事動作訓練まで含まれる。
この訓練を担うのが機能訓練指導員であり、以下のいずれかの国家資格を有する者が該当する:
- 理学療法士〈PT〉
- 作業療法士〈OT〉
- 看護師
- 准看護師
- 柔道整復師
- あん摩マッサージ指圧師
介護福祉士はこの中に含まれておらず、機能訓練の指導は担えないことに注意が必要である(介護援助の担い手ではあるが、訓練の責任者にはなれない)。
また、機能訓練の利用者数は年々増加しており、特に通所リハビリテーション(デイケア)や通所介護(デイサービス)など、在宅高齢者への訓練支援は広がり続けている。
119C24 SDGsと17のゴール(テキスト 公衆衛生10.6)
SDGs〈Sustainable Development Goals〉は、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づく国際目標であり、2030年までの達成を目指して17のゴール(目標)と169のターゲットから構成される。
以下に、SDGsの17ゴールを番号付きで示す:
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
このうちゴール3「すべての人に健康と福祉を」では、以下のようなヘルスケア関連の具体目標が掲げられている:
- ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ〈UHC〉の達成
- 妊産婦死亡率の削減
- 乳幼児死亡率の削減
- 感染症(HIV・結核・マラリアなど)の制圧
- 非感染性疾患〈NCDs〉の予防と管理
- 薬物・アルコール乱用の防止
- 交通事故死の削減
- たばこ規制の推進
- 安全なワクチン・医薬品へのアクセス向上
- 環境汚染による健康影響の低減
119C27 薬害エイズ事件と血友病(テキスト 血液9.2)
薬害エイズ事件とは、1980年代に日本で発生した重大な薬害であり、非加熱の血液凝固因子製剤を用いた治療によってHIVに感染した血友病患者が多数発生した事例である。
当時、血友病の治療にはヒト血漿から抽出された第VIII因子・第IX因子製剤が用いられていたが、これらは加熱処理されておらず、HIVを含む感染リスクが残っていた。アメリカでは1983年頃から加熱処理製剤の導入が進んでいたにもかかわらず、日本では厚生省(当時)や製薬企業の対応が遅れ、情報公開も不十分であった。
この結果、数百人規模の血友病患者がHIVに感染し、亡くなった。訴訟や報道を通じて事件が明るみに出ると、社会的な関心が高まり、薬害の歴史の中でも最も深刻な事例のひとつとして知られるようになった。
この事件は、日本における医薬品行政の透明性・市民参加・患者の知る権利の確立に強い影響を与えた。また、医薬品副作用被害救済制度の見直しや、以降の薬害肝炎訴訟などにも波及した。
119C47 ドライアイスと二酸化炭素中毒(テキスト 中毒2.2)
ドライアイスは二酸化炭素の固体であり、常温で昇華して無色・無臭の気体を放出する。気化した二酸化炭素は空気より重く、低い位置に滞留しやすい性質をもつため、密閉または通気の悪い空間では急激に酸素濃度が低下し、高濃度の二酸化炭素が蓄積する。
特に棺のような閉鎖空間では、遺体保存の目的で使用されたドライアイスから気化した二酸化炭素が内部にとどまりやすい。顔や上半身を近づける行動によって、この高濃度二酸化炭素を吸入すると、意識消失や呼吸抑制、最終的には窒息死に至る可能性がある。これは二酸化炭素中毒であり、酸素欠乏を伴う環境性中毒のひとつに分類される。
二酸化炭素中毒は、無臭で自覚しにくく、また外傷を伴わないため、発見が遅れることがある。特定の作業環境や通夜・葬儀の場での遺体保存など、想定される場面を知識として把握しておくことが予防の観点からも重要である。
119C72 電解質の高低と心電図変化(テキスト 循環器1.12)
カリウム・カルシウム・マグネシウムの電解質異常は、いずれも心電図所見に特徴的な変化をもたらす。臨床判断においては、症候のみならず心電図を併せて解釈することが重要である。
| 電解質 | 高値での変化 | 低値での変化 |
|---|---|---|
| カリウム | テント状T波、PQ延長、P波減高〜消失、QRS拡大 | ST低下、T波平坦化、U波出現、QT延長 |
| カルシウム | QT短縮(ST短縮) | QT延長(T波の延長) |
| マグネシウム | PQ延長、QRS延長、房室ブロック | QT延長、心室性不整脈 |
特に高マグネシウム血症では、深部腱反射の消失や呼吸抑制といった神経筋症状に加えて、房室伝導遅延やQRS延長といった心電図異常が現れる。心停止に至ることもあるため、早期の心電図評価と対応が重要である。
119D8 へパリン起因性血小板減少症〈HIT〉(テキスト 血液1.6臨床像下余白)
へパリン起因性血小板減少症〈HIT〉は、ヘパリン投与によって誘発される免疫性の合併症であり、血小板減少を伴いながらも出血傾向ではなく血栓傾向を呈する点が特徴である。発症は通常、ヘパリン開始から5〜10日以内に起こる。
病態は、ヘパリンと血小板第4因子〈PF4〉の複合体に対する自己抗体が産生され、その免疫複合体が血小板表面に結合して活性化を引き起こすことによる。これにより血小板は消費されて減少する一方で、血小板由来のプロコアグラント因子が放出され、血栓形成が促進される。
HITでは、出血症状よりも深部静脈血栓症や肺塞栓症、動脈血栓症などの血栓性合併症に注意が必要であり、臨床的には血小板数の急激な低下とともに、四肢の虚血や呼吸困難、急性腎障害などが現れることがある。
治療としては、ただちにヘパリンを中止し、代替抗凝固薬(アルガトロバンやダナパロイドなど)への切り替えを行う。ワルファリン単独投与は★禁忌★であり、血小板輸血も原則として行わない。診断は臨床所見に加え、HIT抗体の検出で確定される。
119D9 角膜移植に関する死後眼球提供の適応基準(テキスト 公衆衛生16.8)
死後に行われる角膜移植のための眼球提供は、視力回復を目的とした重要な医療行為であり、日本においては『角膜移植法』に基づき実施されている。眼球提供にあたっては、角膜自体に病変がないことだけでなく、全身疾患や感染症の有無も評価される。
提供を受けた側に感染を起こさないよう、以下のような疾患を有していた場合は、角膜提供が原則として禁止される。
- ウイルス性肝炎(B型・C型など)
- HIV感染症
- 敗血症
- Creutzfeldt-Jakob病(伝播性プリオン病)
- 全身性悪性腫瘍(白血病・悪性リンパ腫など)
一方で、乳癌などの臓器固有性悪性腫瘍については、全身転移が明らかでない限り、角膜提供が可能とされる場合がある。これは角膜が血管を持たない組織であり、転移のリスクが極めて低いためである。
119D16 肺過誤腫(テキスト 呼吸器8.7欄外余白)
肺過誤腫は、肺内に発生する良性腫瘍の一つであり、軟骨・脂肪・線維組織・気道上皮など、さまざまな成分が混在する混成組織から構成される。無症候で偶発的に発見されることが多く、比較的高齢者に好発する。
胸部エックス線やCTにおいて、肺野に境界明瞭な類円形腫瘤として描出されることが多い。特に、造影CTにおいて腫瘤内部に石灰化を認める場合、ポップコーン状の粗大石灰化が特徴的な所見とされる。長期間にわたり大きさに変化がない点も診断の助けとなる。
基本的には経過観察で管理されるが、増大傾向や画像での明確な良性所見が得られない場合には、診断確定のために切除生検が検討されることもある。悪性腫瘍との鑑別においては、腫瘤の成長速度・内部構造の均一性・石灰化のパターンなどを総合的に判断する。
119D72 結核治療の効果判定に用いる検査(テキスト 感染症3.3)
結核治療における効果判定は、主に喀痰検査を用いて行われる。特に、抗菌薬治療開始後2か月の時点における喀痰中の結核菌排出の有無が、治療反応を評価する上での重要な指標となる。
具体的には、以下の2つの検査が標準的に用いられる。
- 喀痰抗酸菌塗抹検査:迅速に菌の有無を確認でき、排菌の有無に関する情報が得られる。
- 喀痰抗酸菌培養検査:培養陽性であれば生きた菌が存在することを意味し、治療の効果判定において最も信頼される指標となる。
一方で、ツベルクリン反応や結核菌特異的インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉は、いずれも感染の診断に用いられる検査であり、治療効果の判定には適さない。また、PCR検査は死菌に対しても陽性となるため、治療効果の評価には不向きとされる。
治療経過中は、これらの喀痰検査の陰性化とともに、画像所見の改善や全身状態の回復も参考にされる。
119E18 皮膚開放創に使用可能な消毒薬(テキスト 感染症1.5)
皮膚開放創に対して消毒を行う際には、消毒効果に加えて組織への刺激性や毒性を考慮する必要がある。創部に使用する消毒薬は、強い殺菌力よりも安全性と刺激の少なさが重視される。
一般的に、皮膚創傷に使用できる代表的な消毒薬は以下の通りである。
- ポビドンヨード:皮膚粘膜に使用可能で、開放創にも適応される。
- クロルヘキシジン:低濃度であれば皮膚・粘膜に使用可。ただし眼・耳・髄腔内には不可。
一方、以下の薬剤は組織毒性が強く、開放創には使用できない。
- エタノール:蛋白変性作用により創部に刺激が強く、開放創への使用は避ける。
- 次亜塩素酸ナトリウム:環境表面の消毒には有効だが、皮膚や粘膜には使用不可。
- グルタールアルデヒド:器具の高水準消毒に用いられ、生体には使用不可。
- ホルマリン:強い殺菌力を持つが発がん性があり、医療現場では環境消毒用途に限定される。
このように、皮膚開放創に安全に使用できる薬剤はごく限られており、消毒薬の種類ごとの性質を明確に把握しておくことが重要である。
119E28 麻痺側での静脈確保を避けるべき理由(テキスト 必修特講 第28講)
末梢静脈路確保においては、利き手や動作上の都合などに加え、疾患や身体状況に応じた部位選択が求められる。特に、脳梗塞後の片麻痺がある場合には、原則として麻痺側での静脈確保は避けるべきとされている。
その理由は以下の通りである。
- 麻痺側では感覚低下があるため、血管痛や神経刺激症状などの訴えが遅れ、合併症の発見が遅れる。
- 血流やリンパの流れが低下しやすく、穿刺部位の炎症や静脈炎、血栓のリスクが上昇する。
- 麻痺によって筋ポンプ機能が落ちており、浮腫が起きやすい(リンパ節郭清などの既往があればリンパ浮腫リスクがさらに上昇)。
以上の理由から、静脈路確保は可能な限り非麻痺側の上肢で行うことが推奨される。特に選びやすいのは肘正中皮静脈や橈側皮静脈であり、血管走行が浅く、安全に穿刺可能な点が利点となる。
119F2 鼠径部の解剖と大腿静脈周囲構造(テキスト 消化管6.9 中央部イラストに追記)
大腿静脈は鼠径靱帯の直下、すなわち下腹部と大腿の境界部に位置し、その周囲には重要な筋・神経・血管が密集している。末梢静脈路確保やカテーテル挿入、ヘルニアの鑑別など、臨床上頻繁にアクセスされる部位であるため、周囲解剖を正確に理解しておくことが求められる。
鼠径靱帯は、上前腸骨棘から恥骨結節へと走行する線維性構造物であり、坐骨結節には付着しない。
鼠径靱帯のすぐ頭側(腹腔側)には後腹膜腔が広がり、さらにその上方には腹膜腔が存在する。鼠径靱帯を境にして、腹腔内構造物と大腿部構造物が分けられるような位置関係となっている。
また、大腿三角は鼠径靱帯・縫工筋・長内転筋によって構成される三角形の空間であり、その内部には大腿神経(N)・大腿動脈(A)・大腿静脈(V)が外側から内側へ順に走行している。縫工筋はこの大腿三角の外側辺を形成する筋である。
119F7 アデレード宣言(テキスト 公衆衛生10.1)
アデレード宣言は、1988年にオーストラリア・アデレードにおける国際会議で採択された保健医療に関する国際的提言であり、保健政策の方向性として「あらゆる政策において健康を考慮する〈Health in All Policies〉」という理念を打ち出したことで知られている。
この考え方は、健康の決定要因が医療サービスだけでなく、教育・労働・環境・住宅・交通など社会のあらゆる領域に関わっているという認識に基づく。したがって、健康を改善するためには保健医療部門だけでなく、他部門の政策形成にも健康的視点を組み込む必要があるとされる。
アデレード宣言は、オタワ憲章(1986年)に基づく「ヘルスプロモーションの国際的な実践」をより具体化した提言であり、各国政府の政策設計における横断的な健康配慮の重要性を強調している。
119F8 職場における法定健康診断の実施時期(テキスト 公衆衛生13.4)
『労働安全衛生法』では、雇用主が労働者に対して一定のタイミングで健康診断を実施することを義務づけている。対象となるのは常時使用される労働者(週の労働時間が正社員の4分の3以上)であり、正規・非正規を問わず適用される。
義務として規定されている代表的な実施時期は以下の通りである。
- 雇入時健康診断(常時使用に先立ち、雇入時に1回実施)
- 定期健康診断(1年以内ごとに1回)
- 特定業務従事者に対する特別健康診断(6か月以内ごとに1回など)
一方で、退職時や復職時、災害発生後の健康診断は法的義務ではなく、事業者の裁量によって実施されることが多い。また、長時間労働者に対しては医師による面接指導が義務化されているが、これも健康診断とは別の制度である。
119F22 母体年齢別の出生割合(テキスト 産婦人科3.7)
日本では、女性の初産年齢が上昇しつつある一方で、40歳以上の出産は依然として全体の一部にとどまっている。平均出産年齢は約31歳とされ、出生の集中は30〜34歳に最も多く見られる。
以下は、母体年齢階級別にみた出生割合の推計である(2023年)。出産における年齢分布の全体像を把握するための参考となる。
119F39 社会的な健康規定要因〈SDH〉(テキスト 公衆衛生10.6)
社会的な健康規定要因(Social Determinants of Health:SDH)とは、健康状態に影響を与える社会的・経済的・環境的な条件のことであり、個人の生活習慣や医療アクセスだけでなく、職場環境や教育、所得、居住状況、人間関係、社会的孤立などを含む広範な概念である。
WHOはSDHを「人が生まれ、育ち、学び、働き、暮らし、加齢する環境によって健康に影響を及ぼす要因」と定義しており、予防医学・地域保健の分野では不可欠な視点となっている。
主なSDHの例には以下が含まれる:
- 所得や雇用形態(不安定就労、失業など)
- 教育レベルとヘルスリテラシー
- 居住環境や住宅の安全性
- 家族構成や社会的孤立
- 職場や地域社会における人間関係
- 医療・福祉サービスへのアクセス
これらの要素は健康格差の主要因ともなり、個人の責任だけでは解決できない構造的背景が存在する。そのため、保健医療の介入だけでなく、社会政策全体としての包括的な対応が求められている。
119F52 骨密度に応じた骨粗鬆症の診断(テキスト 内分泌代謝8.3)
以下のように若年成人平均値〈YAM〉に応じて、3つの段階が存在する。※medu4テキスト内分泌代謝8.3においては、70%〜の記載が不完全であったため(申し訳ないです)、今回の119F52を受けて加筆しておいてください。
| 骨密度(YAM%) | 脆弱性骨折なし | 脆弱性骨折あり(椎体/大腿骨近位部) | 脆弱性骨折あり(上記以外) |
|---|---|---|---|
| 〜70% | 骨粗鬆症 | 骨粗鬆症 | 骨粗鬆症 |
| 70〜80% | 低骨量(骨粗鬆症未満) | 骨粗鬆症 | 骨粗鬆症 |
| 80%〜* | 正常 | 骨粗鬆症 | 骨粗鬆症には該当しない |
119F69 硝酸薬が使用不可な状況(テキスト 循環器4.5)
硝酸薬(ニトログリセリンなど)は血管平滑筋を弛緩させ、静脈容量血管の拡張を主体に前負荷を減少させる。この作用は左室梗塞でのうっ血軽減には有用だが、右室梗塞では右室充満圧が低下して心拍出量がさらに減少し、重篤な低血圧やショックを招く危険があるため禁忌となる。
また、PDE5〈phosphodiesterase5〉阻害薬(シルデナフィルやタダラフィル)はcGMPの分解を阻害し、硝酸薬と同様に血管平滑筋弛緩を促進する。両者を併用するとcGMP濃度が著明に上昇し、相乗的な血圧低下を来して生命に関わるため、原則24〜48時間以内の併用は厳禁である。
- 右室梗塞:前負荷依存性が高く、硝酸薬による静脈還流減少が致命的低血圧に直結する。
- PDE5阻害薬服用後:硝酸薬と機序が重なり、急激かつ持続的な血圧低下を来す。
このため、右室梗塞やPDE5阻害薬内服直後は、硝酸薬の投与は避け、生理食塩液による容量負荷など循環維持策を優先する。
119F71・ 119F74 IABPとECMOの使い分け(テキスト 循環器1.13〜1.14)
大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉は、大動脈内にバルーンを留置し、拡張期に膨らませて冠動脈血流を増加させ、収縮期直前に萎ませて後負荷を減少させることで心拍出を補助する装置である。軽〜中等度の心原性ショックに有効で、低侵襲かつ迅速に導入できるが、循環補助能力は限定的で、重度ショックでは補助不十分となる。
ECMO〈extracorporeal membrane oxygenation〉は、静脈脱血と動脈送血により体外で酸素化・送血を行い、心臓と肺の両方の機能を代替できる装置である。重度の心原性ショックや心停止蘇生後において、心機能回復や次段階治療(PCI、VADなど)までのブリッジとして用いられる。IABPに比べて循環補助能力は大きく、酸素化補助も可能であるが、侵襲性が高く、抗凝固管理や合併症リスクにも注意が必要である。
- IABP:軽〜中等度の心原性ショック、左室後負荷軽減・冠灌流改善目的、酸素化補助は不可。
- ECMO:重度の心原性ショックや心停止蘇生後、強力な循環+酸素化補助が必要な場合、ブリッジ目的。
重度の循環不全や低酸素血症を伴う症例では、IABP単独では不十分であり、迅速にECMOを導入して全身灌流と酸素化を確保することが推奨される。
一方で、ECMOは高度な侵襲的生命維持治療であり、終末期医療において「苦しくないように」「痛くないように」といった患者本人の意思が明確で、延命を望まない場合には適応外となる。侵襲的治療は生命予後を延長してもQOLを低下させる可能性があるため、本人の意思と家族の同意を尊重し、非侵襲的かつ苦痛緩和を目的としたケア(例:酸素投与、オピオイド)を優先する。
119F75 小児のNa欠乏量の求め方(テキスト 小児科2.7)
Na欠乏量は次式で計算する。
Na欠乏量=(正常血清Na − 実測血清Na)× 体水分量
なお、ここにおける「体水分量」は、細胞内液と細胞外液の合計(総体水分量〈TBW〉)を用いる。