120回Update
medu4テキスト(科目名だけの場合は『あたらしいシリーズ』です)の該当セクションをそれぞれお示ししましたので、そちらに追記いただけますと幸いです。
むろん一語一句すべてを追記する必要はなく、ご自身に必要と思われるエッセンス部分のみをご採用いただく形で大丈夫です。
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※Update講座の趣旨はこちら。
※正答を導くために必要な知識に限定しています。たとえ新出事項であっても、常識で解けるようなケース、知識ではなく理論的に考えて導くケースでは省略もあります。
120A2 腎・尿管結石症の疫学(テキスト 内分泌代謝6.3および泌尿器2.4)
腎・尿管結石症は、近年の食生活の欧米化や生活習慣病の増加を背景に、本邦における罹患率が上昇傾向にある疾患である。生涯有病率は男性で約15%、女性で約7%と報告されており、決して稀な疾患ではない。
好発年齢は40〜50歳台であり、若年者に多いわけではない。性差については男性に多く、男性は女性の約3倍の頻度で発症するとされる。これは食事内容や代謝の違い、男性ホルモンの影響などが関与していると考えられている。
発生部位による分類では、上部尿路結石(腎・尿管結石)が下部尿路結石(膀胱・尿道結石)よりも圧倒的に多く、全体の約95%を占める。膀胱結石は前立腺肥大症や神経因性膀胱に伴う尿停滞を背景に高齢男性で生じることがあるが、頻度としては上部尿路結石に遠く及ばない。
近年とくに注目されているのが、糖尿病・メタボリックシンドロームと尿路結石症との関連である。インスリン抵抗性により尿中pHが酸性に傾き、尿酸結石の形成が促進されるほか、肥満に伴うシュウ酸の腸管吸収亢進も結石形成リスクを高める。糖尿病患者では非糖尿病者と比較して尿路結石の発症リスクが有意に高いことが疫学研究で示されており、生活習慣病の文脈で尿路結石症を捉える視点が重要となっている。
120A23 Peutz-Jeghers症候群の一般知識(テキスト 消化管5.5)
Peutz-Jeghers症候群は、口唇・口腔粘膜の色素沈着と消化管の多発性ポリープを特徴とする常染色体顕性遺伝疾患である。本症のポリープは組織学的には過誤腫であるが、その臨床的振る舞いには特徴的な点がいくつかあり、診療上の重要なポイントとなる。
ポリープの発生部位は、小腸(とくに空腸)に最も多く、次いで胃や大腸にも広く分布する。大腸限局型ではない点が、家族性大腸腺腫症〈FAP〉など他のポリポーシスとの大きな鑑別点となる。サイズは数mmから数cmに及び、有茎性で表面平滑な形態をとることが多い。
これらのポリープは経時的に増大する傾向があり、自然脱落することは稀である。サイズの増大に伴って臨床上問題となるのが腸重積による通過障害であり、特に小腸ポリープを先進部とする腸重積は本症の代表的な合併症として広く知られている。腹痛、嘔吐、血便で発症することが多く、緊急対応を要する場合もある。
また、過誤腫であるからといって良性に留まるわけではなく、消化管癌をはじめとする多臓器の悪性腫瘍リスクが高いことが明らかとなっている。胃癌・大腸癌・小腸癌のほか、膵癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、精巣腫瘍など、消化管外の悪性腫瘍リスクも上昇する。このため、本症の患者には生涯にわたる定期的なサーベイランス(消化管内視鏡、画像検査、女性では婦人科検診など)が推奨されている。
120A26 銀杏中毒(テキスト 免疫2.6)
銀杏(イチョウの種子)は秋の味覚として親しまれているが、過量摂取により中毒症状を引き起こすことが古くから知られている。とくに小児における銀杏中毒は、けいれんを主症状とする急性中毒として注意を要する病態である。
原因物質は銀杏に含まれる4'-O-メチルピリドキシン〈MPN〉であり、これはビタミンB6(ピリドキシン)の構造類似体として作用する拮抗物質である。ビタミンB6は中枢神経系における抑制性神経伝達物質GABAの合成酵素(グルタミン酸脱炭酸酵素)の補酵素として働くため、MPNの作用によりB6が機能的に欠乏するとGABA合成が阻害され、中枢神経の抑制系が破綻してけいれんが誘発される。
発症は摂取後数時間以内が多く、嘔吐に続いて全身性けいれんを呈するのが典型像である。意識障害や呼吸抑制を伴うこともあり、重症例では生命予後に関わる。小児はビタミンB6の蓄積量が少なく解毒能も未熟であるため、成人では問題とならない程度の摂取量でも中毒を発症しうる点が重要である。一般に、小児では数個から十数個程度の摂取で発症の報告がある一方、成人では40個以上の大量摂取が中毒域とされる。
治療は、対症的なけいれんコントロールに加え、原因に基づいた特異的治療としてビタミンB6(ピリドキサールリン酸)の静脈内投与が有効である。これは抗結核薬イソニアジドによるけいれん(同じくB6拮抗機序)に対する治療と共通する考え方であり、機序を理解しておくと応用が利く。予防の観点では、小児に銀杏を多量に与えないこと、家庭内での誤食予防が重要であり、保健指導の対象となる。
120A57 間質性膀胱炎の症状と治療(テキスト 泌尿器科3.2)
間質性膀胱炎は、膀胱に原因不明の慢性炎症をきたす疾患であり、中高年女性に好発する。臨床的には、蓄尿時に増悪し排尿により軽快する下腹部・骨盤部痛と、著明な頻尿(重症例では1日20回以上)を特徴とする。膀胱が尿で充満することで疼痛が誘発されるため、患者は痛みを避けようと頻回に排尿を行い、結果として極端な頻尿となる。この症状パターンは、細菌性膀胱炎や過活動膀胱とは異なる本症ならではの所見であり、診断の手がかりとなる。
近年は膀胱鏡所見に基づき、ハンナ型(粘膜にハンナ病変と呼ばれる発赤を伴う炎症性変化を認める)と非ハンナ型(明らかなハンナ病変を欠く)に分類されている。ハンナ型は2015年に指定難病に認定されており、より重症かつ難治性で、特異的治療の対象となる病型である。一方、非ハンナ型は膀胱痛症候群〈BPS〉として位置づけられることが多い。
治療の中心となるのが膀胱水圧拡張術である。これは麻酔下に膀胱内に生理食塩水を注入し、一定の水圧で膀胱を拡張する手技で、症状の改善が期待できる標準的治療である。同時に拡張後の点状出血(glomerulation)やハンナ病変の確認といった診断的意義も併せ持つ。ハンナ型に対しては、ハンナ病変への経尿道的電気凝固術や切除術が高い有効性を示し、第一選択の一つとなる。
これらの局所治療に加え、薬物療法(鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、ジメチルスルホキシド〈DMSO〉膀胱内注入など)や生活指導(刺激性食品の回避、排尿日誌による自己管理)も併用される。膀胱拡大術や膀胱部分切除術といった外科的拡大手術は、他の治療に抵抗する重症難治例に対する最終手段として位置づけられており、初期治療として選択されることはない。なお、BCG膀胱内注入療法や殺細胞性薬剤の膀胱内注入は膀胱癌に対する治療であり、本症の標準治療には含まれない。
120A59 全身性エリテマトーデス〈SLE〉の初期治療(テキスト 免疫4.1)
SLEの治療は、近年大きく進歩しており、画一的な副腎皮質ステロイド中心の治療から、疾患活動性と臓器病変の重症度に応じた個別化治療へと変貌を遂げている。治療方針を立てるうえでまず重要なのが、主要臓器病変(ループス腎炎、中枢神経ループス、重度の血液障害など)の有無による重症度評価であり、これにより使用する薬剤の選択が大きく異なる。
皮膚・関節症状を主体とする軽症〜中等症SLEに対しては、ヒドロキシクロロキンがSLEの基本薬〈anchor drug〉として位置づけられている。本剤は皮疹・関節炎の改善のみならず、疾患活動性の抑制、再燃予防、長期予後(生存率・心血管イベント・腎病変進行)の改善にも寄与することが多くの研究で示されており、禁忌がない限り全てのSLE症例で導入が検討される。投与中は網膜症のリスクがあるため、定期的な眼科スクリーニングが推奨される。これに副腎皮質ステロイド少量〜中等量を併用することで、多くの軽症〜中等症例はコントロール可能となる。
一方、ループス腎炎や中枢神経ループスといった重症臓器病変を伴う場合には、ステロイドパルス療法とともに強力な免疫抑制剤が併用される。歴史的に用いられてきたシクロホスファミドに加え、近年はミコフェノール酸モフェチルがループス腎炎の寛解導入・維持療法において同等以上の有効性を示すことが明らかとなり、副作用プロファイルの良さから第一選択となる場面も増えている。これら強力な免疫抑制剤は、軽症〜中等症の皮膚・関節症状主体例には過剰治療となるため適応とはならない。
生物学的製剤の登場もSLE治療を一新した。ベリムマブ〈抗BAFF抗体〉は、自己反応性B細胞の生存を支えるBAFF(B細胞活性化因子)を阻害する薬剤で、既存治療でコントロール不十分な活動性SLEに対する追加薬として位置づけられる。リツキシマブ(抗CD20抗体)は本邦では適応外使用となるが、難治性SLEや特定の臓器病変に対して使用されることがある。いずれも初期治療の第一選択ではなく、既存治療での効果不十分例に対するステップアップ薬という位置づけである。
このように、現代のSLE治療は「重症度に応じた階層的アプローチ」が基本であり、軽症〜中等症ではヒドロキシクロロキン+少量ステロイドから始め、効果不十分例や重症例で免疫抑制剤・生物学的製剤を順次追加していく流れとなる。副作用管理の観点では、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の使用下では易感染性、骨粗鬆症、胃潰瘍などへの配慮が引き続き重要である。
120A74 推定1日尿蛋白量の計算(テキスト 腎2.2)
推定1日尿蛋白量の計算式を覚えたい。これは、
推定1日尿蛋白量 = 随時尿の尿蛋白濃度 ÷ 随時尿の尿中クレアチニン濃度 ……①
で算出できるというのが最終結論だ。だが、この①式だけを眺めて直感的に理解するのは簡単ではない。どうして"1日"尿蛋白量が問われているにもかかわらず、1日尿量が計算に必要ないのだろう(ちなみに本問のケースではダミー情報として与えられていた)? 数学的に導出してみよう。
本来、
1日尿蛋白量 = 尿蛋白濃度 × 1日尿量 ……②
で算出できる。これは言ってしまえば、当たり前だ。しかし、ここで言う「尿蛋白濃度」は24時間分の尿を全部混ぜた液体の濃度、すなわち、丸1日蓄尿した上で総尿蛋白量÷総尿量に算出される。
が、丸1日の蓄尿は大変であり、随時尿にてサクッと1日尿蛋白量を推定できると便利だ。ここで、クレアチニンは毎日ほぼ一定量(約1g/日)が尿に出るという事実を活用する。
1日クレアチニン排泄量 = 尿クレアチニン濃度 × 1日尿量 ≒ 1g ……③
③を変形し、
1日尿量 ≒ 1 ÷ 尿クレアチニン濃度 ……④
とする。これを②へ代入すると、
1日尿蛋白量 ≒ 尿蛋白濃度 ÷ 尿クレアチニン濃度 ……⑤
となり、⑤は実質①と同義となる。
むろん、性別や筋肉量、腎不全の有無などで個人差があるため、全員が1g/日のクレアチニンを尿排泄しているわけではない。が、あくまで数学的に直感的に近似するためにこの計算が活用されている。
120B27 Alzheimer型認知症のリスクファクター(テキスト 神経3.1)
Alzheimer型認知症は加齢とともに有病率が指数関数的に上昇する疾患であり、長らく加齢が最大のリスクファクターと考えられてきた。しかし近年、生活習慣や血管性危険因子の管理によって発症リスクが大きく低減できることが明らかとなり、認知症は「予防しうる疾患」として捉え直されている。リスクファクターは、修正困難なものと修正可能なものに大別される。
| 分類 | 主なリスクファクター | |
|---|---|---|
| 修正困難 | 加齢(最大の危険因子)、APOE ε4遺伝子保有、家族性発症(プレセニリン・APP変異など、全体の1%未満と稀) | |
| 修正可能 | 血管性リスク | 中年期(45〜65歳)の高血圧、糖尿病、脂質異常症、中年期の肥満、喫煙 |
| 生活習慣・社会的 | 過度の飲酒、運動不足、難聴、うつ、社会的孤立、低教育歴、頭部外傷、大気汚染 | |
とくに中年期の高血圧は、Alzheimer型認知症と血管性認知症の双方において強力なリスクファクターとして確立しており、降圧治療による認知症発症率の低下が複数の介入研究で示されている。中年期に高血圧を指摘された段階での降圧介入は、認知症予防の観点からきわめて意義が大きい。
Lancet委員会の報告(2020年・2024年改訂)では、これら修正可能なリスクファクターの適切な管理により、世界の認知症の約40%が予防または発症遅延が可能と推計されており、認知症予防は公衆衛生学的にも重要なテーマとなっている。
120B41 COPD患者の頸部所見(テキスト 呼吸器4.3)
COPDでは、慢性的な気流閉塞によって呼気が十分に吐き出せず、肺胞内に空気が残留することで肺の過膨張が生じる。この過膨張は単に肺だけの問題に留まらず、胸郭全体の形態にも影響を及ぼし、外見上の身体所見としてさまざまな形で現れる。代表的なのが樽状胸であるが、頸部における特徴的な所見として「気管短縮」が挙げられる。
ここで言う「気管短縮」とは、解剖学的に気管そのものが短くなっているわけではない。気管全長は変わらないが、過膨張した肺が胸郭を押し広げることで胸骨・鎖骨が上方へ偏位し、輪状軟骨から胸骨上縁までの距離〈cricosternal distance〉が短縮する結果、頸部に露出している気管の長さが見かけ上短く見える、という現象である。気管の下半分は胸骨の後ろに隠れてしまい、頸部から触知・観察できる気管が「詰まった」ように見えるのである。
身体所見の取り方としては、患者を座位とし、頸部を軽く伸展させた状態で、輪状軟骨の下縁から胸骨上縁(胸骨切痕)までの距離を指の本数で測定する。正常では3横指以上、COPDでは2横指以下に短縮するのが典型である。簡便かつ特殊な器具を要さない所見であり、診察室での視診・触診で容易に評価できる点で実地臨床的に有用な徴候とされる。
気管短縮は、樽状胸、口すぼめ呼吸、呼気延長、補助呼吸筋の使用、Hoover徴候(吸気時に下部胸郭が陥凹する所見)などとともに、過膨張型COPDの身体所見群の一つとして整理しておくとよい。これらは画像検査や呼吸機能検査を要さずベッドサイドで評価できるため、COPDの病勢把握や急性増悪の認識において臨床的価値が高い。
120C18 年齢に応じた初発けいれんの原因(テキスト 神経10.4)
けいれんは年齢層によって主たる原因が大きく異なる。同じ「初発けいれん」という主訴でも、小児・成人・高齢者ではまず疑うべき疾患が変わるため、年齢を起点とした鑑別の枠組みを持っておくことが臨床的にきわめて重要である。とくに高齢者の初発けいれんは、近年の高齢化を背景に救急外来で遭遇する機会が増加しており、その原因として最多となるのが脳血管障害である点は押さえておきたい。
| 小児(生後6か月〜6歳) | 成人 | 高齢者(65歳以上) |
|---|---|---|
| ・熱性けいれん[最多] | ・特発性てんかん[最多] | ・脳卒中(脳梗塞・脳出血)[最多] |
| ・特発性てんかん | ・頭部外傷後てんかん | ・認知症(Alzheimer型ほか) |
| ・低血糖 | ・脳腫瘍 | ・脳腫瘍 |
| ・電解質異常 | ・アルコール離脱 | ・頭部外傷 |
| ・中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎) | ・薬物中毒・離脱 | ・代謝性(低Na・低血糖など) |
高齢者における初発けいれんで最も多いのは脳卒中であり、急性期の症候性けいれん(発症後1週間以内)と、慢性期の脳卒中後てんかん(発症1週間以降、特に数か月〜数年経過後)の2つの病型に分けられる。慢性期に出現する脳卒中後てんかんは、瘢痕化した皮質を焦点とする部分発作で発症することが多く、高齢者てんかんの最大の原因疾患となっている。皮質を巻き込む病変、出血性脳卒中、広範な梗塞などがリスクファクターとして知られている。
そのほか、高齢者では認知症(とくにAlzheimer型認知症)に伴うてんかんも近年注目されており、進行期の認知機能低下に焦点てんかんが合併することが多い。代謝性原因(低Na血症、低血糖、尿毒症など)や薬剤性(抗菌薬、テオフィリンなど)も、高齢者では併存疾患・多剤併用を背景に頻度が高く、初発けいれんの鑑別では血液検査による代謝スクリーニングを必ず行う必要がある。
120C49 レボチロキシンの吸収を阻害する薬剤・食品(テキスト 内分泌代謝3.6)
レボチロキシン〈LT4〉は甲状腺機能低下症の標準治療薬であるが、消化管からの吸収が不安定で、同時に服用するさまざまな薬剤・食品・サプリメントの影響を受けやすいという特性を持つ。なかでも、多価金属イオンを含む製剤との同時服用は、消化管内で不溶性の複合体〈キレート〉を形成し、レボチロキシンの吸収を著しく阻害することが知られている。代表的な原因物質が、骨粗鬆症予防やサプリメントとして広く用いられる炭酸カルシウムである。
炭酸カルシウム製剤を服用すると、消化管内でカルシウムイオンがレボチロキシンと結合し、難溶性のキレートが形成される。その結果、レボチロキシンが腸管粘膜から吸収されず、体内へ取り込まれる薬物量が大幅に減少する。すでに甲状腺機能低下症の治療下で安定していた患者であっても、新たに炭酸カルシウムが処方・併用されると、TSH上昇とFT4低下を伴う甲状腺機能低下の増悪をきたす。臨床的には、傾眠、徐脈、非圧痕性浮腫(粘液水腫)、体重増加、寒がり、便秘といった甲状腺機能低下症状の再燃として現れる。
このような相互作用を回避するための原則は、レボチロキシンと多価金属製剤との服用時間を4時間以上あけて分離することである。具体的には、レボチロキシンを朝食前の空腹時に内服し、炭酸カルシウムは昼食後または夕食後にずらすといった服用設計が推奨される。患者・家族への服薬指導、薬剤師との連携が予防の鍵となる。
レボチロキシンの吸収を阻害する物質は炭酸カルシウム以外にも複数存在し、まとめて押さえておくと臨床で役立つ。
| 分類 | 代表的な物質 |
|---|---|
| 多価金属イオン製剤 (キレート形成) |
炭酸カルシウム、鉄剤(硫酸鉄など)、マグネシウム製剤、アルミニウム含有制酸薬 |
| 陰イオン交換樹脂 | コレスチラミン、コレスチミド |
| 胃酸分泌抑制薬 (吸収環境変化) |
プロトンポンプ阻害薬〈PPI〉、H2受容体拮抗薬 |
| 食品・飲料 | 大豆製品、コーヒー、高繊維食、グレープフルーツジュース |
これらの併用が避けられない場合は、服用時間の分離と、TSH・FT4の定期的なモニタリングを併せて行うことが望ましい。とくに高齢者では、骨粗鬆症・胃食道逆流症・脂質異常症などに対する併用薬が多く、レボチロキシンの吸収阻害が見落とされやすい。意識レベル低下、徐脈、浮腫といった甲状腺機能低下症の再燃所見をみたら、新規併用薬とサプリメントの確認を行うことが診断の第一歩となる。
120C63 多発性硬化症の再発予防における治療標的(テキスト 神経5.1)
多発性硬化症〈MS〉の病態は、長らくT細胞を中心とする自己免疫機序として理解されてきた。しかし近年、B細胞もMSの病態形成に重要な役割を果たすことが明らかとなり、B細胞を標的とした治療戦略が再発予防における新たな柱として確立されている。
B細胞がMSに関与する経路は単一ではなく、以下の複数の経路を通じて中枢神経の炎症・脱髄に寄与すると考えられている。
- 形質細胞への分化を経て、自己反応性の抗体(オリゴクローナルバンドとして髄液に検出される)を産生する
- 抗原提示細胞として、ミエリン抗原をT細胞に提示し、T細胞性の自己免疫反応を増幅する
- 炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)を分泌し、中枢神経内の炎症環境を形成する
- 髄膜内に異所性リンパ濾胞を形成し、進行型MSにおける慢性炎症の場となる
こうしたB細胞の多面的な関与を背景に、B細胞表面のCD20を標的とする抗CD20抗体(オクレリズマブ、リツキシマブなど)が再発寛解型MSおよび一次進行型MSに対する治療薬として用いられている。これらは末梢のCD20陽性B細胞を選択的に枯渇させることで、再発率の低下、MRI上の新規病変抑制、身体的障害進行の抑制効果を示す。とくにオクレリズマブは、進行型MSに対して有効性が示された初の疾患修飾薬として位置づけられている。
再発予防の疾患修飾薬としては、従来のインターフェロンβやナタリズマブに加え、抗CD20抗体療法、フィンゴリモド(S1P受容体調節薬)、ジメチルフマル酸などが選択肢に加わり、患者の病型・活動性・併存疾患に応じた使い分けが進んでいる。「MSはT細胞病である」という旧来の理解から「T細胞・B細胞双方が関与する自己免疫疾患である」という認識へのパラダイムシフトが起こっている点は、現代MS治療を俯瞰する上で重要な視座となる。
120C66 成人Still病の治療(テキスト 免疫3.4)
成人Still病の治療は、長らく副腎皮質ステロイドを中心とし、難治例にメトトレキサート〈MTX〉やシクロスポリンを併用する形がとられてきた。しかし、ステロイドの長期投与に伴う副作用、減量に伴う再燃、ステロイド・免疫抑制薬抵抗例の存在といった問題があり、近年は病態に直接関与する炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤が治療選択肢に加わっている。
成人Still病の病態形成においては、IL-6とIL-1βが中核的な役割を担うことが明らかになっており、これらが治療標的として臨床応用されている。本症で特徴的にみられる弛張熱、サーモンピンク疹、関節炎、リンパ節腫脹、肝脾腫、白血球増多、フェリチン著明高値、CRP高値といった所見は、いずれもこれらサイトカインを介した全身性炎症反応の表現型である。
代表的な生物学的製剤は以下の通り。
- 抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ):IL-6シグナル伝達を阻害することで全身炎症を強力に抑制する。発熱・皮疹・関節炎の改善に加え、CRPやフェリチンの正常化が得られる。本邦では成人Still病に対する保険適用を有し、ステロイド減量効果(ステロイドスペアリング)も期待される。
- 抗IL-1β抗体(カナキヌマブ):IL-1βを直接中和することで、自己炎症性疾患スペクトラムに位置づけられる本症の病態を根本から抑制する。海外では第一選択級の位置づけだが、本邦では限定的な使用となる。
- IL-1受容体拮抗薬(アナキンラ):本邦未承認だが、海外では難治例に用いられる。
治療上もう一つ重要なのが、本症の重篤な合併症であるマクロファージ活性化症候群〈MAS〉への警戒である。MASは血球貪食症候群と類似の病態を呈し、急速進行性の発熱・血球減少・著明な高フェリチン血症・凝固障害・肝機能障害をきたす致死的病態で、Still病の活動期や治療経過中に出現しうる。フェリチン値の急激な上昇や血球減少傾向を認めた際は、MASを念頭に置いた早期診断・対応が求められる。
120C67 新生児蘇生における保温方法(テキスト 小児科2.1)
新生児、とくに早産児は体表面積に対する体重比が大きく、皮下脂肪に乏しく、自律的な体温調節能力が未熟であるため、出生直後から急速な熱喪失が生じる。出生直後の体温低下は、低血糖・代謝性アシドーシス・呼吸障害・脳室内出血・死亡率上昇など多くの合併症と関連することが明らかとなっており、新生児蘇生の現場における保温は、気道確保・呼吸補助と並ぶ最重要項目である。
熱喪失の経路は、輻射・蒸散・対流・伝導の4つに大別される。これらをすべて遮断することが保温の基本戦略となり、各経路に対応した手段が標準化されている。
新生児蘇生における保温の標準的構成要素は以下の通りである。
- インファントウォーマー〈輻射式保温器〉:上方の輻射ヒーターから児に直接熱を供給する装置。蘇生処置の作業性を保ちつつ保温を行える、新生児蘇生の標準機器。
- 暖かいタオル:児の身体を拭き、濡れたタオルを除去する操作は保温の基本手技。蒸散による熱喪失を防ぐ。
- 帽子:頭部は新生児の体表面積の比率が大きく、輻射による熱喪失の大きな経路となるため、帽子による被覆が有効。
- プラスチックラップ〈ラップフィルム〉:在胎28週未満などの早産児では、児を拭かずに濡れたままラップで包むことで蒸散による熱喪失を最小限に抑える。低体温予防のエビデンスが確立した手段。
一方、温風(ホットエアー)の直接吹付けは新生児蘇生における標準的な保温手段ではなく、用いてはならない。理由として、温風が児の皮膚に直接当たることで皮膚表面の乾燥が進み、かえって蒸散熱喪失を助長すること、また気流による対流熱喪失を増加させること、温度ムラによる局所的な過温・低温を引き起こし体温変動を招くことが挙げられる。輻射熱(インファントウォーマー)が広範囲に均一な熱を供給するのとは対照的である。
保温管理の目標は、出生直後から児の体温を36.5〜37.5℃に維持することである。出生時体温が36.0℃を下回る低体温は、新生児死亡率や合併症との独立した相関が示されており、Apgarスコアと並ぶ重要な蘇生アウトカム指標として国際的に認識されている。出生から入院までの一連の処置の中で、体温管理を意識的なプロトコルとして組み込むことが現代の新生児医療における標準的アプローチとなっている。
120D4 心不全のLVEFによる分類:HFrEFとHFpEF(テキスト 循環器2.1)
心不全は、左室駆出率〈LVEF〉によって大きく2つに分類される。LVEFが低下した心不全をHFrEF〈heart failure with reduced ejection fraction〉(LVEF<40%)、保たれた心不全をHFpEF〈heart failure with preserved ejection fraction〉(LVEF≧50%)と呼ぶ(中間のLVEF 40〜49%はHFmrEFとして近年区別される)。両者は名前こそ似ているが、病態、背景因子、治療反応性、死因のいずれにおいても大きく異なる別個の症候群として理解すべきである。
| HFrEF(LVEF<40%) | HFpEF(LVEF≧50%) | |
|---|---|---|
| 病態 | 収縮機能の低下が主体 | 拡張機能障害が主体(心室充満が障害) |
| 代表的原因 | 広範な心筋梗塞後、拡張型心筋症 | 高血圧性心疾患、肥大型心筋症、心アミロイドーシス |
| 背景因子 | 比較的若年〜中年、男性に多い | 高齢、女性、高血圧、肥満、糖尿病、心房細動 |
| 患者数の動向 | 横ばい〜減少傾向 | 増加傾向(高齢化を背景に心不全全体の約半数) |
| 予後 | 不良 | 同程度に不良(決して良好ではない) |
| 主な死因 | 心血管死(心不全死、突然死) | 非心血管死(感染症、悪性腫瘍、腎不全など) |
| 予後改善薬 | β遮断薬、ACE-I/ARB、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬 | SGLT2阻害薬のみ予後改善効果が確立 |
HFpEFが臨床的に注目される最大の理由は、HFrEFと同程度に予後不良であるにもかかわらず、有効な薬物療法が極めて限られていることにある。HFrEFでは過去数十年にわたるエビデンス蓄積によりβ遮断薬、ACE阻害薬/ARB、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬という多剤併用が予後改善の柱として確立しているが、HFpEFではこれらの薬剤を投与しても同等の予後改善効果は示されていない。SGLT2阻害薬がHFpEFに対して予後改善効果を示した数少ない薬剤として、近年治療の柱となりつつある。
HFpEFのもう一つの特徴は、多くの非心血管疾患を併存していることである。高血圧、糖尿病、慢性腎臓病〈CKD〉、COPD、貧血、肥満、フレイルなどが頻繁に併存し、これらが相互に影響し合って症状を形成する。結果として、HFpEF患者の死因は感染症、悪性腫瘍、腎不全といった非心血管疾患死の占める割合が高くなる。HFrEFが「心臓の病気」であるのに対し、HFpEFは「全身の老化と併存疾患の集積として現れる症候群」という性格を持つことを理解しておくと、両者の臨床像の違いが腑に落ちる。
診断面では、心不全症状(労作時呼吸困難、浮腫など)に加え、心エコーによるLVEF測定とBNP/NT-proBNP上昇の確認が基本となる。HFpEFはLVEFが正常範囲であるため、心エコー所見だけでは見逃されやすく、症状・バイオマーカー・拡張機能評価(E/e'比、左房容積、肺高血圧の有無など)を総合した診断アプローチが必要である。
120D7 猩紅熱の臨床像(テキスト 感染症2.4)
猩紅熱はA群β溶連菌〈GAS〉の感染症であり、菌が産生する発赤毒素に対する宿主の毒素性反応として全身症状が形成される。咽頭炎・扁桃炎を主病巣とする上気道感染に始まり、発熱・全身性皮疹・いちご舌・頸部リンパ節腫大・回復期の膜様落屑など、多彩な症状を呈する。皮疹といちご舌は急性期の代表的所見だが、それ以外の所見についても整理しておきたい。
膜様落屑〈desquamation〉は、急性期の皮疹が消退した後、発症後1〜3週ごろから出現する回復期の特徴的所見である。発赤毒素により表皮全層に毒素性炎症が及ぶと、急性期の充血が引いた後に表皮細胞同士の結合が緩み、表皮が膜状にめくれ落ちる。とくに指先・手掌・足底で大きなシート状の落屑として認められるのが典型的で、ぬぎたての手袋のように一枚の膜状に剥離することもある。同様の落屑は川崎病の回復期にも認められるため、両者は臨床像のうえでも極めて類似しており、鑑別の難所となる。
頸部リンパ節腫大も猩紅熱でしばしば認められる。これは咽頭・扁桃を一次感染巣とするA群β溶連菌が頸部リンパ節へ波及することで生じる、化膿性の所見である。前頸部のリンパ節が圧痛を伴って腫大し、川崎病の頸部リンパ節腫大(多くは片側性、非化膿性)との鑑別ポイントにもなるが、両疾患ともに頸部リンパ節腫大を呈しうるという点では共通する。
一方、両側眼球結膜充血は猩紅熱では認められない所見である。猩紅熱は咽頭粘膜と皮膚を主病変とする毒素性疾患であり、結膜は病変の主座とならないためである。これに対し、川崎病では非滲出性の両側眼球結膜充血が主要症状の一つに含まれており、両疾患を鑑別する際の決定的なポイントとなる。皮疹・いちご舌・膜様落屑・頸部リンパ節腫大が両疾患で重なりうるなかで、結膜充血の有無は両者を分ける重要な臨床所見として記憶しておきたい。
120D10 職場のメンタルヘルスにおける4つのケア(テキスト 公衆衛生13.2A)
労働者のメンタルヘルス不調は、職場のパフォーマンス低下や休職・退職の原因となるだけでなく、自殺など重大な健康被害にもつながりうる。厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」において、事業場における心の健康づくりを4つのケアとして体系化している。担い手と役割が異なる4つのケアが連携することで、一次予防から早期発見・早期対応、さらには職場復帰支援までを切れ目なく支える枠組みとなっている。
| ケアの種類 | 担い手 | 主な役割 |
|---|---|---|
| ①セルフケア | 労働者自身 | ストレスへの気づき、ストレス対処、自発的な相談行動。事業者は労働者がセルフケアを行えるよう、教育研修や情報提供を行う。 |
| ②ラインによるケア | 管理監督者(上司) | 部下の異変への気づき、相談対応、職場環境の改善。日常的に部下と接する立場として、最も早期に不調を察知できる。 |
| ③事業場内産業保健 スタッフ等によるケア |
産業医、保健師、衛生管理者、人事労務担当者など | 専門的立場からの相談対応、メンタルヘルス対策の企画立案、セルフケアやラインケアへの支援、職場復帰支援。 |
| ④事業場外資源 によるケア |
精神科医、メンタルヘルス専門機関、地域産業保健センターなど | 事業場外の専門資源を活用した治療・相談・情報提供。事業場内では対応困難な事例の専門的支援を担う。 |
この4つのケアは、「自分→上司→社内専門職→社外専門機関」と支援の輪が同心円状に広がっていく構造として理解すると整理しやすい。最も身近な労働者本人の気づき(セルフケア)から始まり、日常的に接する上司(ライン)、社内の専門職(産業保健スタッフ)、最終的に社外の専門機関(精神科医など)へと、必要に応じて段階的に支援の階層が上がっていく。
120D12 生活習慣病のリスクを高める飲酒量と純アルコール量の計算(テキスト 公衆衛生6.7)
飲酒は適量であれば健康への影響は限定的だが、長期にわたる多量飲酒は高血圧、脂質異常症、糖尿病、肝疾患、各種がん、脳血管障害などのリスクを高める。健康日本21(第三次)では、こうした生活習慣病リスクを高める飲酒量を、性別ごとに具体的な純アルコール量として明示している。
| 性別 | 生活習慣病のリスクを高める飲酒量(1日あたり純アルコール量) |
|---|---|
| 男性 | 40g以上 |
| 女性 | 20g以上 |
女性の基準値が男性の半分に設定されているのは、女性は男性に比べて体格が小さく、体内総水分量も少なく、アルコール脱水素酵素〈ADH〉活性も低いため、同量の飲酒でも血中アルコール濃度が高くなりやすく、肝障害や乳がんなどのリスクがより低い飲酒量から上昇するためである。
これらの基準を実際の飲酒シーンに当てはめて評価するために必要なのが、純アルコール量の計算である。日常の飲酒は「ビール◯mL」「焼酎◯合」のように体積で表現されるが、健康基準は質量(g)で示されているため、両者をつなぐ換算式を覚えておく必要がある。
純アルコール量(g)= 飲料量(mL)× アルコール濃度 × 0.8
末尾の係数0.8は、エタノールの比重(密度)が約0.8g/mLであることに由来する。すなわち、体積(mL)に比重(0.8g/mL)を掛けることで質量(g)に換算しているのである。
120D16 直腸癌手術の体位(テキスト 消化管5.6)
直腸癌の手術では、腫瘍の位置や進行度によって低位前方切除術、超低位前方切除術、腹会陰式直腸切断術〈Miles手術〉などの術式が選択される。これらに共通する手技上の特徴は、腹部側からの操作と会陰側からの操作を同一手術中に併用する必要があることであり、これが体位選択を規定する最大の要因となる。
通常の開腹手術で用いられる仰臥位では、術者は腹部側からアクセスできるが、会陰部は寝台と接しているため術野として展開できない。直腸の肛門側操作(吻合、肛門側からの切離、Miles手術における会陰操作など)が必要な手術では、仰臥位のままでは対応できないのである。
そこで用いられるのが砕石位〈lithotomy position〉である。砕石位は仰臥位の状態から両下肢を挙上・開脚し、支脚器に固定する体位で、腹部・会陰部の両方を術野として同時に展開できるのが最大の利点である。これにより、腹部側の術者と会陰側の術者が同時に手術に参加でき、また同一術者が術中に体位変換なしに腹部操作と会陰操作を切り替えることができる。直腸癌手術以外にも、経腟手術、経尿道的手術、経肛門的手術など、会陰部・腟・肛門・尿道へのアクセスを要する手術全般で標準的に用いられる体位である。
120D19 胃MALTリンパ腫の治療(テキスト 消化管3.2)
胃MALT〈mucosa-associated lymphoid tissue〉リンパ腫は、低悪性度のB細胞リンパ腫であり、その発症の多くにHelicobacter pylori〈H.pylori〉の慢性感染が関与している。H.pyloriが胃粘膜に持続的な抗原刺激を与え、リンパ濾胞形成からモノクローナルなB細胞の腫瘍化へと進展する病態であり、原因菌の除去が治療の第一歩となる点が、他の悪性リンパ腫とは大きく異なる特徴である。
治療の第一選択はH.pylori除菌療法である。H.pylori陽性の限局期胃MALTリンパ腫では、除菌療法のみで約60〜80%の症例で腫瘍の退縮(完全寛解)が得られる。この高い奏効率は、原因抗原の除去によって持続抗原刺激が消失し、B細胞増殖の駆動力が失われることに基づく。除菌成功後も腫瘍の退縮には時間を要するため、内視鏡・生検によるフォローアップを定期的に行い、効果判定は数か月〜年単位で継続して行う。
除菌療法で腫瘍が残存・再発する症例、あるいはH.pylori陰性例、t(11;18)転座を有する症例(除菌抵抗性の遺伝子異常として知られる)では、二次治療として局所放射線照射が選択される。放射線療法も限局期病変に対しては高い奏効率を示し、根治が期待できる。さらに進行例や放射線無効例に対しては、抗CD20抗体(リツキシマブ)や殺細胞性化学療法が追加される。これらは初回治療として用いるものではなく、段階的に治療強度を上げていく階層的アプローチが標準である。
胃MALTリンパ腫に対して胃全摘術などの侵襲的外科手術は適応とならない。本症は低悪性度かつ非外科的治療への反応性が良好であり、除菌療法・放射線療法といった臓器温存可能な治療で根治が得られるため、外科切除は治療体系の中に位置づけられない。胃癌とは治療戦略が全く異なる点を理解しておきたい。
120D38 新生児低酸素性虚血性脳症の治療(テキスト 小児科2.1)
新生児低酸素性虚血性脳症〈hypoxic ischemic encephalopathy;HIE〉は、周産期の低酸素・虚血により新生児の中枢神経が障害される病態である。常位胎盤早期剥離、臍帯異常、子宮破裂、高度の胎児徐脈などを背景に、出生時に重度の新生児仮死(低Apgarスコア、高度のアシドーシス)を呈し、生後数時間以内に意識障害、筋緊張低下、原始反射の消失、けいれんなどの神経学的異常を示す症例が典型像である。HIEは新生児期の死亡や重度後遺症(脳性麻痺、知的障害、てんかんなど)の主要な原因疾患であり、迅速な認識と対応が予後を大きく左右する。
HIEに対する治療として、現在唯一有効性が確立しているのが低体温療法(治療的低体温)である。これは、低酸素・虚血による初期の細胞傷害(一次的エネルギー不全)の後、数時間〜数十時間の遅延期に進行する二次的な細胞障害(アポトーシス、興奮毒性、酸化ストレス、炎症など)を抑制することを狙った治療である。体温を低下させることで脳代謝が抑制され、これらの遅延性神経細胞死が軽減される結果、神経学的予後と生存率の改善が複数の大規模臨床試験で示されている。
治療開始の目安として、正期産児(在胎36週以上)の中等度〜重度HIEに対して、生後6時間以内に開始することが国際的に推奨されている。神経細胞傷害の進行を食い止めるには「治療開始までの時間」が決定的に重要であり、6時間という時間枠は治療効果が得られる窓〈therapeutic window〉として位置づけられる。実施方法としては全身冷却法または選択的頭部冷却法があり、目標体温33〜34℃で72時間維持した後、緩徐に復温する。
適応判断には、出生時の重度仮死(低Apgarスコア、臍帯動脈血pHの著明低下など)に加え、神経学的異常所見(意識障害、筋緊張低下、けいれん、原始反射の異常など)を確認する。ただし、低体温療法の効果は早産児では確立されておらず、また染色体異常や重篤な先天奇形を有する症例は対象外となる。NICUでの全身管理(呼吸循環管理、けいれん管理、栄養管理など)と並行して行われる、現代の周産期医療における重要な脳保護治療である。
120D47 短腸症候群における肝障害と腎結石(テキスト 消化管3.10)
広範囲小腸切除後の短腸症候群では、栄養吸収面積の著減により下痢・脱水・電解質異常といった主症状が前面に立つが、これらに加えて肝障害と腎結石という一見意外な合併症がしばしば認められる。両者は機序的に独立した病態ではなく、いずれも回腸末端の切除に伴う胆汁酸の腸肝循環の破綻を共通の起点として発生する点が興味深い。
胆汁酸は肝臓で合成されたのち、十二指腸に分泌されて脂質の吸収を担い、その大部分(約95%)は回腸末端で能動的に再吸収されて門脈を介し肝臓に戻る。これが胆汁酸の腸肝循環であり、限られた胆汁酸プールを効率的に再利用することで脂質吸収を成立させている。回盲弁付近を含む回腸末端が広範に切除されると、この再吸収機構が破綻し、胆汁酸が便中へ大量に喪失する。ここから、肝障害・腎結石それぞれの病態が枝分かれする。
肝障害の機序は次のように説明される。胆汁酸喪失により、胆汁酸プールの維持が困難となり、肝臓への胆汁酸供給が不足する。これにより脂質吸収障害が進行し、未吸収脂肪が結腸に流入することで脂肪便が増悪する一方、腸管由来の毒素・サイトカインの肝への流入増加、腸内細菌叢の変化、長期中心静脈栄養〈TPN〉に伴う影響などが複合的に作用し、胆汁うっ滞、脂肪肝、肝線維化を特徴とする腸不全関連肝障害〈intestinal failure-associated liver disease;IFALD〉が形成される。長期管理症例では肝硬変・肝不全に至ることもあり、短腸症候群の予後を規定する重要な合併症である。
腎結石の機序はやや異なる経路をたどる。健常人では腸管内のシュウ酸はカルシウムと結合して不溶性のシュウ酸カルシウムとなり、便中に排泄される。ところが短腸症候群では、未吸収の脂肪酸が腸管内で増加し、これがカルシウムと優先的に結合してしまうため、本来カルシウムと結合すべきシュウ酸が遊離した状態で残ってしまう。遊離したシュウ酸は大腸から異常に吸収(高シュウ酸尿症)され、尿中シュウ酸濃度が上昇することで、シュウ酸カルシウム結石が腎に形成されやすくなる。この機序は腸性高シュウ酸尿症〈enteric hyperoxaluria〉と呼ばれ、回腸切除後・脂肪吸収障害を伴う患者で典型的にみられる病態である。
このように、短腸症候群では腸そのものの機能不全に加えて、肝臓・腎臓といった遠隔臓器の障害が連鎖的に生じる。長期的な管理においては、栄養補給だけでなく、肝機能・尿中シュウ酸・腎結石形成のモニタリングが不可欠である。胆汁酸の腸肝循環という一つの軸から、複数の合併症が論理的に派生する点を理解しておくと、短腸症候群の全体像が立体的に把握できる。
120D62 免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能低下症(テキスト 免疫1.6)
免疫チェックポイント阻害薬〈immune checkpoint inhibitor;ICI〉は、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)などからなる薬剤群で、腫瘍に対するT細胞の免疫応答を解除することで抗腫瘍効果を発揮する。一方、本来は自己組織を攻撃しないように働くチェックポイント機構を解除する性質上、自己免疫反応に類似した有害事象を引き起こすことが知られており、これらは免疫関連有害事象〈immune-related adverse events;irAE〉と総称される。
irAEは多臓器にわたって出現しうる。代表的なものとして、皮膚(皮疹、白斑)、消化管(下痢、大腸炎)、肝臓(肝炎)、肺(間質性肺炎)、内分泌系(甲状腺、下垂体、副腎、膵臓)、神経・筋(重症筋無力症様症状、脳炎)などが挙げられる。発症時期は薬剤投与開始後数週から数か月にわたり、なかには投与中止後も新規に発症する例もある。
内分泌系irAEのなかで頻度が高いのが甲状腺機能異常であり、ICI投与例の約10〜20%に認められる。多くは破壊性甲状腺炎の形をとり、初期に一過性の甲状腺機能亢進症(無症候のことが多い)を経て、その後持続性の甲状腺機能低下症に移行するパターンを示す。検査所見ではTSH著明高値・FT4低値という典型的な原発性甲状腺機能低下症の像となる。なお、TSHの著明高値に伴って下垂体からのプロラクチン分泌(同じくTRHにより刺激される)が二次的に上昇することがあるが、これは病的な高プロラクチン血症ではなく、甲状腺機能の補正により改善する。
ICIによる甲状腺機能低下症への対応の原則は、レボチロキシンによるホルモン補充療法である。本症は不可逆的な甲状腺破壊によって生じるため、ステロイド投与による炎症抑制では機能回復が得られず、不足したホルモンを補充する治療が標準となる。同じirAEでも、間質性肺炎・大腸炎・肝炎などの臓器障害型ではグルココルチコイドが第一選択となるのとは対照的であり、irAEの病型に応じた治療選択が重要となる。
もう一つの臨床判断のポイントは、ICIの継続可否の判断である。甲状腺機能低下症はホルモン補充により管理可能なirAEであり、抗腫瘍効果が得られている症例では、ICIを中止せず継続投与することが標準とされる。一般にirAEに対するICI中止判断はGrade(重症度)に基づいて行われ、Grade 1〜2では多くの場合継続可能、Grade 3〜4では中止または永久中止を検討するという階層的アプローチがとられる。甲状腺機能低下症は通常Grade 2以下にとどまり、ホルモン補充下での治療継続が原則となる。
120E17 抜糸の正しい手技(必修特講25)
抜糸は、創部の縫合糸を除去する基本手技でありながら、正しい原則を意識せずに行うと創部感染や創離開のリスクを高めてしまう。抜糸の核心は、皮膚表面に露出していた糸(汚染部)を組織内に通過させないことにある。皮膚外に出ていた糸の部分は、空気・皮膚常在菌・滲出液などに曝露されており、これがそのまま組織内を通過すれば創部に細菌を持ち込むことになるためである。
抜糸の手順は次の3段階で進む。まず鑷子で結紮部を持ち上げる。次に、鑷子と反対側の皮膚直上で糸を切離する。最後に、鑷子側へ糸を引き抜く。この一連の流れには、それぞれ理由がある。
切離点を「鑷子と反対側の皮膚直上」とする理由は2つある。第一に、鑷子側には引き抜きに必要な十分な長さの糸を残す必要があるためである。糸が短すぎれば把持が困難となり、引き抜きの際に糸が切れて皮下に断片が残るリスクが生じる。第二に、皮膚直上で切ることで、皮膚外に出ていた汚染部を組織内に押し込まずに済むためである。たとえば結紮部の直下で切ると両側の糸が短くなり把持が困難になり、皮膚外(皮膚から離れた高い位置)で切ると切離後に空中で揺れて汚染部が周囲に触れるリスクが残る。
切離後の引き抜き方向もまた重要である。鑷子で挙上していた側へ向けて引き抜くことで、組織内に残っていた清潔部の糸(緑)が皮膚を通過して体外へ出ていき、その後に続く汚染部(赤)はそのまま空中を移動して体外へ抜ける。すなわち、汚染部が一度も組織内を通過しない経路で抜去が完了する。これが抜糸の核心的原理であり、創部感染リスクを最小化する手技学的根拠となる。
抜糸時期は部位や創の状況により異なり、顔面では4〜5日、頸部・体幹では7日前後、四肢・関節部では10〜14日が目安となる。早すぎる抜糸は創離開、遅すぎる抜糸は糸跡(縫合糸瘢痕:トラックマーク)の原因となる。創の治癒状況、緊張、感染徴候の有無を確認したうえで、適切なタイミングで上記の正しい手技に基づき抜糸を行うことが求められる。
120E29 障害年金(テキスト 公衆衛生5.1②)
障害年金は、傷病により一定の障害状態となり、生活や就労に支障をきたした人に対して支給される公的年金である。老齢年金が「高齢になったとき」、遺族年金が「死亡したとき」に支給されるのに対し、障害年金は「現役世代に障害を負ったとき」の所得保障として位置づけられる。年齢制限はなく、若年者も含めて受給対象となる点が大きな特徴である。
障害年金には、加入していた公的年金制度に応じて2つの種類がある。
- 障害基礎年金:国民年金の加入者を対象とする。1級・2級の2段階で支給。
- 障害厚生年金:厚生年金の加入者(被用者)を対象とする。1級・2級・3級に加え、より軽度の障害には障害手当金(一時金)が支給される。障害基礎年金に上乗せして支給される構造となる。
受給の主要な要件は次の3点である。
- 初診日要件:障害の原因となった傷病について、初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、公的年金に加入していたこと。
- 保険料納付要件:初診日の前日において、一定期間の保険料納付(または免除)があること。
- 障害認定要件:障害認定日(原則として初診日から1年6か月経過時点)において、定められた障害等級に該当する状態にあること。
等級の認定は、日常生活動作〈ADL〉や労働能力の制限の程度により判定される。1級は他人の介助なしには日常生活がほぼ不可能な状態、2級は日常生活に著しい制限を受ける状態、3級(厚生年金のみ)は労働に著しい制限を受ける状態が目安となる。脳卒中後遺症、難病、精神疾患、悪性腫瘍、人工透析、ペースメーカー植込み後など、多岐にわたる傷病が対象となりうる。
医療現場で重要なのは、障害年金は若年者であっても利用可能な制度であり、長期療養や復職困難な患者には積極的に検討すべき社会保障であるという点である。介護保険は40歳以上かつ特定疾病でなければ利用できず、生活保護は世帯収入を勘案した最後のセーフティネットであり、労災保険は業務上・通勤中の傷病に限定される。これらに該当しない若年・現役世代の障害患者にとって、障害年金は所得保障の中核となる制度である。患者・家族から復職困難や経済的不安の相談を受けた際には、社会保障制度の選択肢として障害年金の受給可能性を検討する姿勢が求められる。
120E33 熱中症における深部体温の測定部位(テキスト 救急5.5)
重症熱中症(とくに熱射病)の診療では、深部体温(core temperature)を正確に測定することが、重症度判定および冷却治療の効果判定の鍵となる。深部体温とは脳・心臓・大血管などの中枢臓器の温度を反映する真の体温であり、外気温の影響を受けにくい体内深部の温度を意味する。
日常的に用いられる腋窩温は体表温に近く、外気温・発汗・血流の影響を受けやすいため、深部体温との乖離が大きい。具体的には、腋窩温は深部体温より0.5〜1℃程度低く出る傾向があり、熱射病のように体温が40℃を超えるような重症例では、この誤差が治療判断を誤らせるリスクとなる。同様に前額部や舌下温も外的影響や患者協力度の問題があり、深部体温の指標としては不適である。
熱中症において推奨される測定部位は直腸温である。直腸は腹腔内の深部に位置し、外気温の影響を受けにくく、深部体温を最もよく反映する。膀胱温、食道温、肺動脈血温なども深部体温の指標となるが、熱中症の救急現場で簡便かつ迅速に測定できるという観点では、直腸温が標準的な部位として位置づけられている。鼓膜温は深部体温に近いとされる場面もあるが、測定機器の特性や手技により値にばらつきが出るため、熱中症の重症度評価では直腸温が優先される。
120F6 我が国の人工妊娠中絶件数の推移(テキスト 公衆衛生11.2)
我が国の人工妊娠中絶件数は、戦後の母体保護法(旧優生保護法)施行以降、長期的には大きな減少傾向を示してきた。一方で、近年は減少幅が緩やかとなり、現在も年間10万件を超える水準で推移している。学習上は「減少傾向にある」だけでなく「絶対数として依然として多い」という二面性を併せて理解しておきたい。
グラフが示すように、人工妊娠中絶件数は1955年の約117万件をピークとし、避妊知識の普及、家族計画運動、社会経済の変化などを背景に長期的に減少を続けてきた。1990年に約46万件、2000年に約34万件、2010年代に20万件前後となり、近年は12万件台で推移している。
120F20 DV法の枠組みと医療関係者の役割(テキスト 公衆衛生8.4欄外)
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律〈DV法〉は、配偶者からの暴力(身体的暴力に限らず、精神的・性的暴力も含む)の被害者を保護し、自立を支援するための法制度である。家庭内で繰り返されるDV被害は外部から見えにくく、被害者自身が声を上げにくい性質を持つため、医療機関は被害発見の重要な接点として位置づけられている。
DV法における支援の枠組みは、以下の3つの柱から成る。
| 機能 | 担い手・役割 |
|---|---|
| 相談・一時保護 | 配偶者暴力相談支援センター(都道府県・市町村に設置)。婦人相談所が中核機能を担う。被害者の相談受付、カウンセリング、緊急時の一時保護、自立支援を行う。 |
| 保護命令の発令 | 地方裁判所。被害者からの申立てに基づき、加害者に対する接近禁止命令、退去命令、電話等禁止命令などを発令する。違反者には刑事罰が科される。 |
| 捜査・身辺保護 | 警察。身体への危害が現に加えられている、または加えられるおそれが大きい場合の介入、被害者の身辺保護、加害者への警告などを行う。 |
医療関係者がDV被害者を発見した場合、DV法に基づき配偶者暴力相談支援センターまたは警察官への通報が認められている。これは「通報できる」という任意規定であり、虐待防止法のような通報義務(児童虐待防止法・高齢者虐待防止法・障害者虐待防止法では通報は義務)とは異なる点に注意が必要である。被害者本人の意思を尊重しつつ、安全確保が必要な状況では速やかに通報・連携を行うことが医療者の役割となる。
DV被害は、身体的外傷だけでなく不安・不眠・うつ・PTSD・薬物依存・摂食障害など多彩な精神的・行動的問題として医療機関を受診することが少なくない。睡眠薬・抗不安薬への依存、原因不明の体重減少、繰り返す外傷、説明と症状が一致しない受診歴などは、DV被害を疑う手がかりとなりうる。被害者の入院加療や継続的支援にあたっては、DV法による保護の枠組みに加え、精神保健福祉法など他の社会制度との連携が必要となる場面も多い。医療関係者は、目の前の傷病だけでなく、その背景にある暴力被害の存在に気づき、適切な支援につなぐ視点を持つことが求められる。
120F28 日本人のがん罹患に寄与するリスク要因(テキスト 公衆衛生8.5)
日本人のがん罹患には、生活習慣・感染症・身体的要因など複数の予防可能なリスク要因が関わっている。日本人男性のがんの約55%、女性のがんの約30%が、これらの予防可能な要因に起因するとも言われ、適切な対策によって相当数のがんが回避可能であることが示されている。一方、男女で第1位のリスク要因が異なるという特徴があり、性別ごとの寄与度を理解することが公衆衛生上の介入戦略を考えるうえで重要となる。
| 順位 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1位 | 喫煙 | 感染(HPV、ピロリ菌、HBV、HCVなど) |
| 2位 | 感染(ピロリ菌、HBV、HCVなど) | 喫煙 |
| 3位 | 飲酒 | 飲酒 |
男性では喫煙が第1位であり、肺がんを筆頭に、咽頭・喉頭がん、食道がん、膀胱がんなど多数のがんに寄与する。日本人男性は伝統的に喫煙率が高水準であったため、能動喫煙・受動喫煙によるがん罹患への寄与度が大きい。近年は喫煙率が低下傾向にあり、喫煙関連がんの寄与度も今後減少していくことが予想されている。
一方、女性では感染が第1位となる。これは、女性の喫煙率が男性に比べて低いことに加え、女性特有のがんとして子宮頸がん(HPV感染)が大きな割合を占めること、そして男女ともに罹患する胃がんにおいてピロリ菌感染の関与が大きいことによる。HPV(子宮頸がん)、HBV/HCV(肝細胞癌)、ピロリ菌(胃がん)、EBV(鼻咽頭がん、リンパ腫)、HTLV-1(成人T細胞白血病/リンパ腫)など、感染と関連するがんは多岐にわたる。
感染性因子によるがんの特徴は、ワクチン接種や除菌治療といった明確な予防介入が可能であることである。HPVワクチンによる子宮頸がん予防、ピロリ菌除菌による胃がん予防、HBVワクチンや抗ウイルス治療による肝細胞癌予防など、エビデンスに基づく一次予防策が確立している。日本人女性のがんの第1位リスクが感染であるという疫学的事実は、こうした予防介入の臨床的意義を裏付けるものとなっている。
飲酒は男女ともに第3位前後のリスク要因として位置づけられ、肝がん、食道がん、大腸がん、頭頸部がん、乳がん(女性)などのリスクを高める。塩分摂取は胃がんのリスク要因として知られるが、がん全体への寄与度は感染や喫煙に比べて低い。過体重・肥満も乳がん(閉経後)、子宮体がん、大腸がんなどのリスクを高めるが、欧米と比較すると日本人での寄与度は相対的に小さい。
120F74 心アミロイドーシスの検査(テキスト 循環器7.4)
心アミロイドーシス診断に重要な検査がピロリン酸シンチグラフィ〈⁹⁹ᵐTc-PYP/⁹⁹ᵐTc-DPD〉である。本検査では、放射性ピロリン酸製剤を静注すると、ATTR型アミロイドが沈着した心筋に強い集積が認められる。骨に集積する性質を持つ放射性製剤が、なぜか心アミロイドへの結合性も高いことを利用した診断法で、感度・特異度ともに高い。
ピロリン酸シンチグラフィの最大の意義は、従来は心内膜心筋生検が必須であったATTR型心アミロイドーシスの診断を、非侵襲的画像検査で完結できるようになったことにある。ただし本検査はATTR型に特異的であり、AL型では集積が乏しいか軽度に留まる。AL型の鑑別には血清・尿の遊離軽鎖測定、免疫電気泳動などによる単クローン性蛋白の検索が併せて必要となる。
診断の意義は治療介入につながる点にある。ATTR型心アミロイドーシスに対しては、近年、トランスサイレチン四量体を安定化させるタファミジスや、TTR遺伝子発現を抑制する核酸医薬(パチシラン、ブトリシランなど)が保険適用となり、疾患修飾治療が可能となっている。心エコー所見と心臓外所見から本症を疑い、ピロリン酸シンチグラフィで非侵襲的に診断確定し、適切な疾患修飾薬による治療へとつなげる流れが、現代の心アミロイドーシス診療の標準となっている。